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2024.05.22
近代輸出漆器の全貌に触れ
ダイナミックな魅力を体感(2024年5月24日号中区・西区版)
港町横浜の貿易港としての進化
開港場であり、海外と日本の文化が出会う町であった横浜。明治から昭和戦前期の近代の横浜は、国内外のさまざまな物品が集う場であり、かつ、新たなものが生まれる生産地でもあった。
安政6年(1859年)の横浜開港の際、静岡の漆器商らは海外への輸出量の増加を見込み、いち早く横浜に進出した。万国博覧会などで日本の工芸品は高く評価され、漆器もジャポニズムの流行する西洋からの需要に応え、輸出が本格化した。国内の各生産地では、小さな土産物から大きな家具に至るまで、多種多様な漆器が制作され横浜へ輸送。さらに横浜は、海外からの注文にいち早く応えるべく、遠く離れた産地での制作は不利と考えた職人が横浜に集結し、制作を行う生産地へと変貌していった。
そして輸出漆器の用途や意匠、和洋の文化と嗜好が融合して生まれたデザインは、独自の魅力をたたえる工芸品へと進化した。それの最たるものが芝山細工を伴う一群だ。
西洋人気も高い華やかな芝山細工
芝山細工とは、象牙や獣骨、貝、サンゴ、べっ甲など、さまざまな材料を文様の形に加工し、漆器や木工品、金工品などの表面に立体的に象嵌(ぞうがん)する技法を指す。江戸時代後期に江戸で発展し、海外からの人気を集め、横浜で制作されるようになった輸出漆器の装飾として盛んに用いられた。芝山細工の特徴は、その立体感にある。象嵌の技法としては浅浮き彫りのようにあらわすもの、土台をつけて器面から飛び出すように表すもの、花びらなどを一枚一枚かたどったパーツを器面に取り付け、立体的な花を表すものなどがある。本展覧会では、華やかな芝山細工や、立体的な横浜彫りなど、輸出工芸品の展開とその背景が横浜を中心に紹介されている。
また、さまざまな色や木目を持つ木材で文様を作った寄木細工や木象嵌による、土産物のような小物から、輸出品として作られた大型の机や飾り棚のような家具。日本各地の漆器産地の技術が、ひとつの作品の中に融合された詳細な産地が不明な輸出漆器なども展示。終盤では、新たに生まれた表現や技法が、伝統として伝わるものと共存しながら現代の神奈川の漆器、木工芸の制作に息づいている様を紹介している。
特別展 近代輸出漆器のダイナミズム
-金子皓彦コレクションの世界-
6月30日(日)まで
神奈川県立歴史博物館
Tel.045-201-0926
営業時間 9:30~17:00